2018/12/23

半導体の超概説(3)

<パワー半導体>
そもそも、実体経済における電圧の現状≒需要の例は;
特別高圧: 交/直流ともに 7,000V超
高圧: 交流は7,000V~600V超、直流は7,000V~750V超
低圧: 交流は600V以下、直流は750V以下

超高圧変電所→一次変電所: 154KV (用途需要50,000kW以上)
一次変電所→二次変電所、鉄道など: 66KV (用途需要10,000kW以上~50,000kW)
二次変電所→大規模工場など: 33KV (用途需要2,000kW以上10,000kW)
配電変電所→ビルディング、変圧器、燃料電池など: 6.6KV
変圧器→電気自動車、小工場、一般住宅: 650V以下


さて、とりわけ大電量の電力供給システムにおける精巧な電圧変換、整流、および高速のスイッチングを主目的に開発された半導体素子を、とくに「パワー半導体」という。
パワー半導体は、高電圧における電気抵抗≒熱損失の徹底的な低減、それによる動作安定性が必須であり、技術仕様上は「定格電圧」がこれにあたる。
実体経済における電力供給システムの大規模化、かつ精密な配電能力の要求に応じて、パワー半導体の需要は増大の一途である!

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<サイリスタ/トライアック>
パワー半導体として最初に開発された素子が、交流を直流に整流するための「サイリスタ」であり、高耐電圧のものであれば送配電系にても用いられている。

サイリスタ素子はp-n-p接合トランジスタとn-p-n接合トランジスタを更に接合させたn-p-n-pの4層構造を成している。
サイリスタのメカニズムを大まかに記すと; アノード電極→カソード電極に順方向の電圧をかけつつゲート極に正電圧が印加された瞬間に正方向に電流が流れる、がしかしこの回路で逆方向に電圧がかかると瞬時に電流がオフになり、再びアノード→カソード極に順方向の電圧がかけつつゲート極に印加されると正方向に電流が流れる…
よって、ゲート極への正電圧タイミングと電流方向の組み合わせ次第で交流回路から直流に整流かつ制御ができる。

しかしながら、電流制御時の動作速度、オン抵抗の大きさ、そして正方向電流のみの制御能力などを鑑みると、サイリスタは大電圧回路に必ずしも適しているとはいえない。

なお、サイリスタ素子をさらに接合させたn-p-n-p-n構造の5層構造が「トライアック」素子である。
トライアックは、入力電圧と同じ極性の電圧をゲート極に加えると電流が流れはじめ、入力電圧がゼロになるとともに出力電流もゼロになる、よって、正/負の双方向に整流が出来る。

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<パワーMOSFET>
パワーMOSFETは、直流/直流の電圧コンバータおよび直流/交流インバータとして起用され、高速スイッチングと耐電圧に優れるため極めて多くの設備型機器などに採用されている。
とくに高速スイッチング機能を実現したことで、電気系ハードウェア全般の小型化を促してきた。

パワーMOSFETは原型のMOSFET素子と組成構造が異なり、電界生成に応じたチャネル量が格段に増えるようにn型/p型の半導体素材が垂直の層状を成している(DMOS構造と呼ばれる)。
また電極まわりの構造でも、ソース~ドレイン極のオン抵抗を抑えるようゲート極が縦構造を成すトレンチゲート型と、耐電圧能力を重視したプレナーゲイト型がある。
とくに、電子キャリアによるnチャネルかつ、常時はチャネルがオフであるエンハンスメント型が普及している。

とはいえ、パワーMOSFETはシリコンベースでの半導体素子ゆえ、せいぜい300V以下の低電力制御に起用されるものであり、大電圧でのコンバータやインバータとしては用いられない。

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<IGBT>
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、パワーMOSFETを超える数千Vの電圧にて高速スイッチング機能を実現するもの。
燃料電池や鉄道制御の素子としても用いられている。
基本構造は、nチャネルエンハンスメント型の基本MOSFETのドレイン極にp-n-p型バイポーラトランジスタのp型部を組み合わせたもので、高速スイッチング操作をMOSFETで行いつつ、MOSFETで対処しきれない大電流をバイポーラトランジスタで補完する機能をもつ。

ただし、IGBTもやはりシリコンベースでの半導体素子であるため、産業用途での大電力電圧システムでは用いられない。
また、構造がMOSFETよりも複雑であるため、量産には必ずしも適しているとはいえない。

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以上、ここまでは電流の増幅、変圧、整流、そして高速スイッチングの機能を単体として有する半導体、いわゆる「ディスクリート半導体」の素子について超概説を記した。

ディスクリート半導体素子の特性につき、皮相電力(VA) と動作周波数(Hz) の要件から比較すると;
バイポーラトランジスタ : 1kVA以下 / 10kHz以下
サイリスタ : 10MVA~1kVA / 1kHz以下
パワーMOSFET : 10kVA以下 / 1MHz~10kHZ
IGBT : 1MVA~100VA以下 / 10kHz以下

なお、シリコンベースのこれら半導体素子に対して、炭化ケイ素や窒化ガリウムは耐電圧の安定度が約10倍、電力損失はわずか1/100である。

ガリウムヒ素半導体の電子速度はシリコンの約5倍もあり、高速集積回路のデバイスとして実用化が検証されている。


つづく
次回はメモリ、センサ、光学系、レーザにおける半導体素子の超概要など