2019/05/11

A.I.U.


「先生、聞いて下さい!あたし、必殺のサーブを習得しちゃいました!」
「ほぅ、そうか。で?」
「だから受けて下さい!」
「なんだ、そんなもん、顧問のxx先生に相手してもらえばいいじゃないか」
「だって、あの人イヤなんだもん」
「それはそうかもしれないが、だからって、なぜ俺が?」
「お願いしますよ~、あたしのサーブを受けて下さい、ねえ、きっとビックリするから」
「…うぅむ、それならちょっと相手してやるか」



「先生、いいですかー、それでは打ちますよ、凄いボールだから腰を抜かさないようにね」
「そうかね。さぁ、遠慮せずに思いきり打ってきなさい」
「ハイッ!」
「うわっ!…消えた!…ボールが消えてしまった…これはなんということだ!」
「ねえ、すごいでしょう!」
「おい!これは只事じゃないぞ!君はとんでもないことをしでかしてしまった!いいか、『消えるボール』は在ってはならないものなんだ」
「ふーん?でも、あたしは使えるんだけど~~、ふふふん♩」
「しかし、これは起こってはならないことなんだよ……うーむ…よし!こうしよう。いいかね、ほら、ここに人工知能があるね」
「はぁ、ありますね~」
「人工知能で『消えるボール』について検索してみようか。すると…ほらっ、見てごらん、『消えるボールは物理上も数学上も存在しないことになっている』と書いてある。ね、人工知能が存在を否定するくらいなんだから、そんなものは在ってはならないんだ。分かるね」
「はぁ??そうなんですか?……でも、おかしいなあ、その解説は誰が書いたんですか~?
「誰って…だから人工知能が書いたんだよ、つまり、間違いなしだ」
「はぁ~??それじゃあ、あたしはどうすれば」
「何も心配することはないよ。いいかね、人工知能はこう続けているぞ、『消えるボールを競技者が打ち込んだとして騒動が起こる場合もあるが、これは大いなる錯覚及び勘違いである』 だって」
「な~んだ、あたしの勘違いだったのね。ばかばかしい……」
「さぁ、納得したところで、ひきあげるとしようか」


「あれっ?ねえ先生!人工知能の記述がいつの間にか変わってます!」
「なんだと?!で、なんと書いてあるんだ?」
「えーと、なになに? 『いまや、消えるボールは通常の技法として広く認知されており、世界各地のプレーヤーが試合において大いに活用するものである』 だって」
「……ウーム、そう言われてみれば、そんな気もする……うぬっ!そうだ、人工知能が言う通りだ!『消えるボール』は確かにありきたりの技法だ、だから君が習得したところで不思議でもなんでもない。ははははっ、あったりまえのことなんだ」
「やっぱりそうなんですね ─ ところで、ねえ先生、いったん消えたボールが数分後に再び出現する現象について、人工知能の説明によるとですね」
「あ痛っ、おお?突然ボールが出現したぞ!」
「はい、そんなふうなありふれたアクシデントに驚かされてはならないと警句を発しています」



(おわり)
※ 落語のネタとして使えないものかな