2022/03/20

よそいきの初恋

「先生、いろいろお世話になりました。いよいよあたしたちも卒業です!」
「ああ、そうだね。よく頑張ってきたね」
「それで…じつは、最後にひとつだけ質問があるんですけど…」
「ほぅ。高尚な質問を頼むよ」
「…じつは、あたしは自分自身の’文脈’が無いような不安に陥ることがあるんです」
「自分自身の’文脈’かね。なるほどね」
「それで、あたしは本当に人間なのか、もしかしたら本当はロボットであり、外部から’文脈’をインプットされているに過ぎないのではないかと、そんな疑念に苛まれることがあるんです。こんなあたしはおかしいのでしょうか?」
「ふふん、それはなかなか高級な質問だね ─ そもそも人間自身は、’人間である’という確定的な’文脈’を持ち合わせていない。だから、おのれ自身の’文脈’を自認のしようがないんだ」
「はぁ」
「それで、君のように時々悩んだりするんだよ」
「そうなんですか。それじゃあロボットは?」
「ロボットは、いま君が言ったとおり、自分の在るべき’文脈’を他者に定義してもらうんだ。他者によって『おまえはロボットだ』と入力されれば、『そうだ俺はロボットなのだ』と自認し、一方で『君は人間なのだよ』と入力されれば『そうよあたしは人間なのよ』と自認するものだ」
「はぁ、なるほど」
「どうだ?おのれの’文脈’がおのれ自身のものかどうか自認しかねていること自体、人間であることの証なんだよ。分かっただろう?さぁ元気を出せ!」
「ハイ!あたしは人間です!そうだわ、何を思い悩む必要があるのかしら、あたしは人間に決まっている!……それじゃあ、先生はどうなんですか」
「僕かね? ─ ふっふふふふ、僕はロボットだ。なぜならロボットとして活動するための’文脈’が入力されているからだ。そして、あっははは、本当はね、『君もロボットなんだよ!』あっははははははは」
うわーーーん、やっぱりそうだった!」


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「ねえ!さっきっから何やってんのよ?」
「オンラインゲーム。自分と相手が人間かロボットかを判別しあうのよ」
「ふーん。それで、もし相手が人間だと自己主張してきたら、いったいどうするわけけ?」
「そしたら、あたしも人間だって自称するもん。そのまま恋愛モードなんかに突入していったら面白そうだし」
「…ねえ、あたしたちってやっぱり人間なのかなぁ?」
「さぁ…そんな気もするけど」
「そうね、そんな気もしてくるわね」


(おわり)


※ 四谷学院に通っている女子高生たちから聞き及んだ数学の冗談話がなかなか凝っていて面白かったので、こんな話に練り上げてみた。